一人で音楽を学ぶあなたへ:孤独に寄り添う本2選

ブログ(日常いろいろ)

まだまだ暑さが残っていますが、もうすぐ「読書の秋」。

音楽を学ぶ時間はどうしても一人で過ごすことが多く、孤独を感じる瞬間があります。

大体の人がグループレッスンではなく個人レッスンなので、気づけば音楽をシェアする相手が先生だけ、ということも少なくありません。

「他の人はどう練習しているんだろう」「どんな気持ちで続けているんだろう」と思っても、なかなかじっくり聞ける機会はありませんよね。

だからこそ、そうした感情を癒し、共感させてくれる本と出会えることは、とても心強いものです。

今回は、そんな本を2冊ご紹介します。


老後とピアノ


老後とピアノ
  • 著者:稲垣えみ子
  • 出版社:ポプラ社
    (※Amazonの公式ページに移動します。)


稲垣えみ子さんは、朝日新聞社の記者として活躍した後、50歳で早期退職し、「自分らしい生き方」をテーマに数々の著作を発表してきた方です。

「都内で、冷蔵庫なし、ガス契約なしという生活」を送っていて、それにもかなり驚くのですが、彼女がそこから新しいライフスタイルを切り開いていく本も話題になりました。

『老後とピアノ』は、そんな稲垣さんが子どもの頃に習っていたピアノを再び学び直す過程を描いた一冊です。

記者ならではの緻密な観察眼で、練習のもどかしさや弾けない瞬間の落胆までが細やかに描かれており、「そうそう、わかる!」と共感できる場面がたくさんあります。

さらに、この本では「今だからこそ気づける視点」も丁寧に綴られています。
また、その表現も彼女らしくて、面白みがあるんですね。
さすが、言葉を職業としている方だと思いました。

また、ところどころで年齢と向き合い、「若い頃とは違う…」といった少し苦い感情もきちんと書かれていて、リアルだなと思いました。

けれど、そうした思いも含め、さまざまな葛藤や喜びを経てピアノに挑む姿は、励まされ、読書後は、清々しい気持ちになりました。


ネヴァー・トゥー・レイト 私のチェロ修業


ネヴァー・トゥー・レイト 私のチェロ修業
  • 著者:ジョン・C・ホルト(John Caldwell Holt, 1923–1985)
  • 訳者:松田りえ子
  • 出版社:春秋社
    (※Amazonの公式ページに移動します。)

ジョン・C・ホルトは、アメリカの教育家であり作家です。
日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは教育分野に大きな影響を与えた人物で、多数の著作を残しました。学校改革やホームスクーリングの推進に大きな役割を果たした方だそうです。

そして、彼が晩年に執筆したのが、この『ネヴァー・トゥー・レイト 私のチェロ修業』(原題 Never Too Late)です。

この本では、著者が大人になってからチェロを学び始め、その過程で直面した喜びや苦労が描かれています。

レッスンでのつまずきや練習の試行錯誤が、率直でありながら丁寧に語られていて、まるで彼の思考の内側を覗いているかのような細やかさで綴られています。

この本の中の言葉はどれも深くて心に残る文が多いのですが、特に印象的だったのが「はじめに」に書かれている次の一節です。

より深い意味では、これは探求と発見の物語である。

前から好きだった二つの言葉がある。
一つは、バーナード・ショーの言葉で、

「必ず好きなものを手に入れなさい。そうしないと、手に入ったものを好きにならざるを得なくなる。」

もう一つは、スペインの古いことわざだ。

「神は言われた、欲するものを取れ、そして支払いをせよ。」

本当に手に入れたいものとその代償、そして支払いの方法を見つけること。これは全ての人にとって日々の生活の大切な一部である。

—『ネヴァー・トゥー・レイト 私のチェロ修業』(松田りえ子訳、春秋社、2002年)「はじめに」より

この言葉に私は強く心を動かされました。

ピアノやチェロといった楽器の練習に限らず、これは人生そのものにも当てはまる深い教えです。

本当に欲しいものを選び取る勇気と、その代償を引き受ける覚悟。
だからこそ、新しい発見や喜びが生まれるのだと、この本は教えてくれます。

そして、音楽を学ぶことは、ただの趣味や技術習得ではなく、

「人生を発見し学ぶための手がかりにもなる」

 と、この本には、最初から最後までそうした真摯なテーマが流れているように感じました。

大人になってから始めたからこそ丁寧に気づけることがある――そう思わせてくれる一冊でした。


まとめ

今回ご紹介した2冊は、どちらも音楽を通して「人生そのものを映し出す」ような視点を与えてくれる本です。

楽器を練習している方はもちろん、何かを学び直したい方や、日々の生活に新しい意味を見つけたい方にとっても、きっと心に残る読書体験になると思います。

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